国土交通省が21日に発表した「令和3年 都道府県地価調査」結果を受け、業界団体・企業のトップが以下のコメントを発表した(以下抜粋、順不同)。
■(一社)不動産協会 理事長 菰田正信氏
■(一社)不動産流通経営協会 理事長 伊藤公二氏
■(公社)全国宅地建物取引業協会連合会 会長 坂本 久氏
■(公社)全日本不動産協会 理事長 秋山 始氏
■三菱地所(株) 執行役社長 吉田淳一氏
■住友不動産(株) 代表取締役社長 仁島浩順氏
■東急不動産(株) 代表取締役社長 岡田正志氏
■東京建物(株) 代表取締役 社長執行役員 野村 均氏
■野村不動産(株) 代表取締役社長 松尾大作氏
■森トラスト(株) 代表取締役社長 伊達 美和子氏
■(一社)不動産協会 理事長 菰田正信氏
今回発表された都道府県地価調査では、全国全用途平均は、2年連続で下落となった。商業地においては下落幅が拡大するなか、大阪圏では9年ぶりの下落に転じ、東京圏では上昇率が縮小したが、名古屋圏では下落から上昇に転じる等、個別の地価の動きは用途や地域等によって異なる傾向もみられる。我が国経済が、一部で持ち直しの動きが見受けられるものの、コロナ禍の影響により依然として非常に厳しい状況にあるとともに、先行きについても不透明なこと等が、地価に反映されたものと認識している。
そのような中、企業業況感の回復にもバラツキがあり、特にコロナ禍の影響を大きく受けている地域・業種では引き続き厳しい状態にある。景気の下振れリスクも指摘され、先行きも予断を許さない状況にある。引き続きあらゆる施策を総動員し、感染症に伴う経済や企業活動の落ち込みを反転させ、着実に回復させていく必要がある。
とりわけ、来年度の固定資産税については、今回の都道府県地価調査の結果等が反映されることとなるが、企業業績に関わらず、急激な負担増が生ずる地域が、相当数見られる見込みであること等、来年度の固定資産税の負担増の発生状況が納税者に与える影響にも十分留意の上、負担調整措置の拡充等負担軽減のため必要な対応を講ずることが不可欠だ。
■(一社)不動産流通経営協会 理事長 伊藤公二氏
本年の都道府県地価調査では、全国の地価動向は、新型コロナウイルス感染症の影響等により2年連続の下落となったが、下落率は縮小した。用途別では、住宅地は下落率が縮小し、商業地は下落率が拡大した。三大都市圏でみると、住宅地は下落から横ばいに転じ、商業地は9年連続の上昇となったが上昇率は縮小、大阪圏の商業地は9年ぶりに下落に転じた。
既存住宅の流通市場においては、東日本不動産流通機構の統計によると、首都圏の成約件数は、昨年度第1四半期に前年比で大きく減少した後、増加に転じ、今年度4~8月の平均では成約件数・価格ともにコロナ禍前の2019年度の同時期を上回る水準となっている。一方で、新規登録件数は対前年比で減少が継続している。住宅流通の営業現場の足元も同様の状況にあり、旺盛な購入需要に支えられ取引件数は堅調に推移しているが、売却物件が出にくい状況が続いており、在庫の品薄感が増している。
今回の調査では、コロナ禍が長引き、景気が依然として厳しい状況のなか、昨年に引き続き足元での地価形成に影響が見られることが確認された。
土地は、国民生活・経済活動の基盤であり、地価が安定的に推移することは先ずもって重要である。その上で、内需を牽引する住宅・不動産流通市場の活性化が求められる。この点、令和3年度限りの措置として講じられた固定資産評価替えによる課税標準額の上昇の据置きや、住宅ローン減税等の拡充・床面積要件の緩和をはじめ、税負担が過度にならない税制上の措置を引き続き講じ、拡充することは、不動産業界はもとより、コロナ禍後を見据えた経済全体の足元を固める上で必要不可欠なものと考える。
また、本年3月に閣議決定された新たな住生活基本計画では、既存住宅中心の施策体系への転換が打ち出され、ライフスタイルに合わせた住宅の住替えを可能とする住宅循環システムの構築を進めるとの認識が示された。
当協会としても、新たな住生活基本計画の方向に沿いながら、「安心・安全な不動産取引が実現する市場」や「多様なニーズが充足される厚みのある市場」の実現を目指して鋭意取り組む所存であり、国においても引き続き税制・法制等の政策的支援をお願いしたい。
■(公社)全国宅地建物取引業協会連合会 会長 坂本 久氏
令和3年の都道府県地価調査の結果は、全用途平均が2年連続のマイナスとなったがマイナス幅は0.4%と昨年の結果と比べマイナス幅は縮小を示した。
住宅地のマイナス幅も縮小傾向を示しており、特に、希少性の高い住宅地や交通利便性等の優れた住宅地では上昇が継続し、また、上昇の地域の範囲も拡大をしている。
一方、商業地では、マイナス0.5%と昨年と比べマイナス幅が拡大した結果で、コロナ感染症の影響を受ける業態が集中している地域などの状況が反映されたものであった。
地方圏では全用途・住宅地はマイナスを示しているがマイナス幅は縮小傾向を見せている。
依然として、新型コロナ感染症による市場全体への影響はあるものの、一部地域では、回復の兆しが見え始めていることから景気回復に向けさらなる施策が望まれるところである。
また、全宅連不動産総合研究所による7月時点の最新の土地価格動向でも実感値でプラス7.5ポイントと前回調査時と比べ5.9ポイント改善、2調査連続で改善しており足元では確実な回復基調がうかがえる。
全宅連では、コロナ禍における経済の回復を確実なものとするため、低未利用土地等の利用促進税制の拡充や、適用期限を向かえる各種税制特例措置の延長、土地の固定資産税等に係る負担軽減措置、所有者不明土地等にかかる各種政策提言など土地住宅流通市場の活性化に鋭意取り組んで行きたい。
■(公社)全日本不動産協会 理事長 秋山 始氏
令和3年の都道府県地価調査においては、全国の全用途平均が2年連続の下落とはなったものの下落率は縮小しており、また圏域別に見ると三大都市圏、そして札幌、仙台、広島、福岡の地方四市をはじめとした都市部で地価の回復基調が見て取れるなど、前年に比して幾分明るい材料が窺われる。用途別に見ると、住宅地は全国平均で下落率が縮小し、東京圏、名古屋圏では下落から上昇へと転じたほか、地方四市にあっては札幌を筆頭に依然として堅調を維持している。また工業地においては、eコマース市場の拡大に伴う大型物流施設用地の需要が底堅く、全国平均、圏域別いずれにおいても上昇傾向にある。これに対して、商業地はいまだ地価が底を打っておらず、全国平均で2年連続の下落、かつ下落率も拡大するなど、名古屋圏を除き、ほぼ全国を通じて停滞の傾向を示している。
このとおり、今回の調査結果では、都市部を中心に住宅地の先行きに光が兆したものの、商業地はいまだコロナ禍の影響を脱し切れていないことが浮彫りになっている。さらにいえば、本調査が本年7月1日時点を基準としているところ、その後に国内のほぼ全域においてこれまでで最も深刻なコロナ第5波のあおりを受けたことからすれば、一部の地価回復傾向についても安穏として捉えることはできない。このため、今後の動向を占う上で重要な指標となる国交省の「地価LOOKレポート第三四半期(7月1日~10月1日)」のリリースを注視しているところである。
直近においては、自民党総裁選挙、さらには衆議院議員選挙が予定されており、国民の期待と関心も日ごとに高まっている。我が国の将来を見据えた大きな変革がもたらされる機会と捉えて、本会としても引続き熱意をもって公益の実現に向けた要望活動を進めて参る所存である。
■三菱地所(株) 執行役社長 吉田淳一氏
令和3年都道府県地価調査は、全国全用途で昨年に引き続き下落となったが、その下落率は縮小した。住宅地の下落率も縮小しており、商業地においては、国内外からの集客増加による店舗・ホテル需要等で上昇していた地域では回復の遅れがみられる一方、都市中心部におけるオフィスの安定的な需要を受け、三大都市圏の商業地は9年連続の上昇となっている。今後も引き続きコロナ禍を契機に加速した人々のワークスタイルやライフスタイルの変化に寄り添いながら、コロナ収束後を見据えて事業を着実に進めていく。
オフィスは、「人が集まって作業をする場」から、「コミュニケーションを通じた社員同士の信頼関係を構築する場」「アイディアの創発を促すディスカッションや意思決定の場」へのシフトが進んでおり、新たなテナントニーズに応えた高付加価値のオフィスは需要が高い。東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」の一部である「常盤橋タワー」(2021年6月末竣工)では、非接触での入館やエレベーター手配、食堂における食事の注文や決済等々が可能になる就業者専用アプリを導入して就業者の利便性・快適性向上を図ったほか、共用スペースを活用した出会いやつながりを生み出す仕掛けを施しており、既に9割の企業が内定しているなど引き合いが強い。
また、多様な働き方を支えるワークプレイスの一つとして2018年より各地域と連携して進めている「ワーケーション事業」では、和歌山県・南紀白浜や長野県・軽井沢、静岡県の熱海や伊豆下田においてワーケーションオフィスを開業・運営している。
今後も、新たな価値を生み出すために必要な交流拠点、多様な働き方を支えるワークプレイスを提案していく。
住宅は、テレワーク活用に伴う郊外需要が高まる一方で、利便性の高い都心エリアの需要も継続している。室内の収納スペースをテレワークスペースに変更する「“work”in closet」や、共用部にワークスペースを設置した住宅など、ニーズを捉えた商品企画を推進しており、特に「ザ・パークハウス名古屋」や「ザ・パークハウス自由が丘ディアナガーデン」などの販売が好調だ。
引き続き、オフィスや住宅などの垣根を超えた、多様なワークスタイル、ライフスタイルに対応する施策を提案していく。
なお、まちづくりを手掛ける当社では、DXで目指すまちづくりのビジョンを示した「三菱地所デジタルビジョン」を策定し、リアルとデジタルが一体となったまちづくりを推進している。DXを通じて一人ひとりの「個」のニーズに合った快適なライフスタイルをサポートすることを可能にし、まちに関わる個々人がまちにある機能やサービス、商品等々を使い倒せるような仕組みを構築していく。
また、まちづくりにおいては、SDGsに関する各種施策も積極展開しており、例えば、丸の内エリアのビル18棟と横浜ランドマークタワーの計19棟の使用電力すべてをRE100対応の再生可能エネルギーに切り替えた。丸の内エリア18棟のCO2削減量は約16万トンで、エリアにおける当社所有ビルCO2排出量の約8割に相当する。2022年度には、丸の内エリアにおけるすべての当社所有ビルで再エネ電力を導入し、その他エリアにおいても積極的に導入する。今後も、一企業の枠を超え、行政機関や地域の企業などと一体となって持続可能な都市の姿を示していきたい。
■住友不動産(株) 代表取締役社長 仁島浩順氏
ワクチン接種が進展し、コロナ禍からの脱却期待が高まる一方で、デルタ株の蔓延により感染再拡大の懸念が拭えず、経済正常化への道筋が見通しにくい情勢が続いている。
こうした中、商業地の地価は概ね横ばい圏で推移、人流や移動の制限によりホテルや飲食店舗などの需要が引き続き低迷したものの、業績堅調な企業の新規需要もあり、オフィスビルの市況悪化は小幅にとどまっている。
一方、住宅地は低金利などを支えに、都心や郊外駅前など利便性に優れた地域を中心に需要が堅調で、上昇に転じた地点が増加した。
■東急不動産(株) 代表取締役社長 岡田正志氏
今回の都道府県地価調査では、全国の全用途平均が2年連続で下落したが、下落率は縮小するなど、昨年の調査と比べて変化が見られた。これは新型コロナウイルスの影響で商業施設の休業や営業時間短縮、移動制限によるインバウンドの消失や外出自粛による国内観光需要の減退などが続き、商業地の下落率は拡大する一方、コロナ禍による「働き方」「住まい方」への意識の変化や在宅時間の増加などで住環境へのの関心が高まった結果、住宅地の下落率が昨年調査より縮小したことが影響したとみられる。
住宅地は全国平均では下落が続いているが、三大都市圏で見ると、東京圏や名古屋圏では昨年の下落から上昇に転じた。都心の利便性の高い住宅地の人気は継続しており、当社でも東京メトロ「豊洲」駅近のタワーマンション「ブランズタワー豊洲」など都心部の物件販売が好調に推移している。加えて、コロナ禍でテレワークなどの「新しい働き方」が広がった結果、例えば「オフィスへの出勤が基本だが、週1~2日はテレワーク」などという働き方も増えており、住環境の良い郊外の住宅地にも注目が集まっている。当社も関東では都心への利便性が高い埼玉県所沢市で在宅ワーク施設を充実した「ブランズタワー所沢」、関西では大阪、京都に通勤しやすい滋賀県草津市で「ブランズティ南草津」を展開するなど、新しい流れに合わせた事業展開をしている。
商業地は全体で下落が続いている。大阪圏で9年ぶりに下落に転じ、東京圏では上昇幅が縮小。名古屋圏は下落から上昇に転じた。コロナ禍による外出自粛、インバウンド需要の消失、インターネットでの消費拡大の影響で、都心の商業施設は苦戦する傾向が続いているが、政府が検討している外出制限緩和などの追い風が今後は見込めるほか、インバウンド需要も数年以内には復活するとみており、中長期的には決して悲観する必要はないだろう。
今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因やコロナ禍の影響には引き続き注視する必要があるが、長期的な視点でみれば、市況に明るさが徐々に戻ってくるのではないかとみている。コロナ禍の中でテレワークなどは進むものの、オフィスでコミュニケーションを取る重要性は変わらず、組織全体の一体感を生み出す、社内外のあらゆる人とコミュニケーションの活性化ができるセンターオフィスは今後も必要不可欠であると考えている。当社も2022年竣工の「旧九段会館」建て替え事業、そして2023年度竣工予定の「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」などでもウィズコロナ、アフターコロナの「新たな日常」で求められるオフィス空間を提供していく。その一方でテレワークなどの「新しい働き方」、郊外を含めた「新しい暮らし方」の需要へも対応するために、サテライトニーズへの対応としてフレキシブルに利用可能なオフィス「QUICK」をこれまでの都心に加え、さいたま市大宮区などの郊外にも展開するほか、静岡県浜松市の「東急リゾートタウン浜名湖」などではワーケーションサービスを提供している。今後もセンターオフィスを中心に、様々なオフィス需要に対応した幅の広いオフィスサービスを展開していく。
地方圏では地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)を中心に地価上昇が継続している都市もある。当社は札幌・すすきのの繁華街の入り口で新たな商業施設「(仮称)札幌すすきの駅前複合開発計画」の開発に着手したほか、観光需要の根強い京都市では9月16日にヒルトンの最上級ブランドのラグジュアリーホテル「ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resorts」を開業した。当社がリゾート事業を手掛けインバウンドを中心に人気が高い北海道・ニセコは今年も住宅上昇率の上位にランクインするなど人気が継続している。当社は全国を対象に地域の成長性などに着目し事業を展開していく方針だ。
当社は全国で再生可能エネルギー発電事業を積極展開しており、企業活動に必要な電力を100%再生可能エネルギーに切り替える「RE100」の達成目標を2025年と、当初目標より25年前倒した。2022年度には全てのオフィスビルを再生可能エネルギーに切り替える方針で、入居した企業が環境対応できるオフィスなどの差別化したサービスを提供し、不動産市場のニーズを着実に取り込んでいく。
■東京建物(株) 代表取締役 社長執行役員 野村 均氏
今年発表された地価調査は、新型コロナウィルス感染症の影響も含め地価の下落が継続しているものの、全国全用途平均で下落幅が縮小している。店舗売上やホテルの稼働が厳しい中、商業地については下落傾向が続いている一方で、交通・商業利便性に優れた分譲マンション用地や物流施設用地の需要は引き続き旺盛であり、投資マーケットも活況を呈していることから、一部エリアでは地価が上昇に転じるなどエリアや用途によって動きに差異が生じている。
今後については、新型コロナウィルス感染拡大の状況や経済情勢も踏まえつつ、地価動向を引き続き注視していく必要があると考えている。
(商業地)
ホテルや飲食店舗は、緊急事態宣言等による来訪者の減少等により大きな影響を受けたが、ワクチンの普及に伴う行動制限の緩和等が進むことで、ホテルや店舗等の来訪者数や売上も上向きに転じていくと期待している。
オフィスについては、働き方改革等によりリモートワークやシェアオフィス等、働く場所が多様化しているが、社員間のコミュニケーション促進やイノベーション誘発の場となるオフィスの優位性は変わらず、各企業の業績の回復と共にオフィス市況も落ち着きを取り戻していくものと考えている。
このような状況から、商業地の地価はアフターコロナを見据え、利便性に優れた商業地から徐々に安定していくものと考えている。
(住宅地)
分譲マンションについては、住環境が良好であることや広さといった住まいの快適性に対するニーズが高まっており、都心部を中心に郊外や地方都市でも実需層への販売は順調に進捗している。
このような状況から、住宅開発用地については取得競争が継続しており、今後も生活・交通利便性の高いエリアを中心に上昇傾向が継続するものと考えている。
変異株の流行等、新型コロナウィルス感染の収束は予断を許さないものの、当社は今後も人々が安全・安心・快適に過ごせる職住環境の実現を目指していく。
■野村不動産(株) 代表取締役社長 松尾大作氏
今回の地価調査は全国全用途で2年連続の下落となったが、下落幅は減少した。住宅地については全国平均で下落幅は縮小したほか、都心部および近郊の交通利便性の高い地域の引き続きの上昇や、昨年より上昇が見られる地域の範囲拡大などもみられる。一方、東京圏および大阪圏の商業地については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う先行き不透明感から、概ね横ばいまたは下落に転じている。
住宅市場に関しては、テレワークをはじめ、「住まう」と「働く」の境界が薄まるなか、価値観やニーズの多様化がさらに顕著になっている。都心・駅前立地の新築物件や、交通・生活利便性に優れる物件の評価は依然高いことに加えて、間数・広さを求めての準都心や郊外物件の販売も好調であり、底堅い需要を感じている。また、中古売買についても、グループ会社における本年4月~6月の首都圏での成約件数が過去最高を記録するなど、コロナ禍を受けた住み替え需要もまだ一巡したとは考えていない。総じて強い需要を感じる状況ではあるが、引き続き市場環境を注視しながら、多様化するニーズに対して幅広い選択肢で応えていく。
オフィス市場に関しては、エリアによって一時的な空室率上昇が見られるものの、今後は単なるテレワークの導入に留まらない働き方の変化が加速すると想定される。コミュニケーションを重視したオフィス空間への変更や本社機能のあり方変化、郊外拠点やシェアオフィス利用を増やすなど、企業のニーズも非常に多様化している。オフィスに集まる意義やオフィスが生み出す価値を見つめ直しながら、時間と場所を選ばない自由な働き方を実現する空間やサービスの提供を続けていく。商業・ホテル市場に関しては、緊急事態宣言の影響もあり引き続き厳しい状況が続くことは想定しているものの、ワクチン普及などを含む消費経済活動再開への期待は高まっており、需要の回復を注視したい。物流市場に関しては、eコマースの拡大などを踏まえ、旺盛な投資意欲が継続するものと想定する。
このように長引くコロナ禍は社会や人々の価値観に大きな影響を与え、不動産関連事業にも様々なニーズの変化をもたらしている。当社としては、グループ全体としてDXやサステナビリティの取り組みを強力に推進しながら、これまで同様、個人・法人に関わらずお客様に寄り添い、ニーズを的確に捉えた独創性の高い商品・サービスの提供を続ける。
地価調査は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。
■森トラスト(株) 代表取締役社長 伊達 美和子氏
■商業地の全体感
商業地の地価は、全国平均で2年連続の下落となったものの、三大都市圏のうち、東京圏では9年連続で上昇を継続した。大阪圏では9年ぶりに下落に転じた一方で、名古屋圏では下落から上昇に転じた。地方圏の平均においても2年連続の下落となったものの、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)においては上昇を継続し、4.6%の上昇となった。
■背景と具体的な現象
コロナ禍以降、オフィス需要は弱含みであるものの、低金利・金余りの状況が続いているため、不動産に対する投資需要は引き続き堅調である。大規模開発が進む虎ノ門・赤坂エリアでは、将来的な期待感が下支えとなり、当該エリアの地価は横ばいを維持している。
地方圏の地価平均は、コロナ禍による観光業への打撃に伴い下落したが、再開発の進むエリアや、コロナ収束後に観光需要の回復が見込まれる観光地においては地価の上昇がみられ、全国的に二極化の様相を呈している。別荘利用・教育施設の充実を背景として移住者が増加している長野県軽井沢町や、投資需要が堅調に推移した長野県白馬村や沖縄県宮古島などにおいては、地価が上昇した。
■今後の見通し
テレワークの普及に伴い、オフィスの役割を再定義する企業の動きが活発化している。その中で、オフィスはワーカー同士の交流や知を創出し、企業の成長に繋がるといった認識が改めて広がりつつある。直近ではオフィス空室率の上昇が目立つものの、今後の働き方を見通せる状況になれば、生産性の向上や優秀な人材確保などを目的に、都心の好立地に位置するオフィスは引き続き選択されるとみられる。それに伴い投資需要においても、再開発が進むエリアやハイスペックな大型ビルについては底堅く推移することが予想される。供給側は、ビルやエリアにおいてハード・ソフトの両面からDX を推進するとともに、企業の多様な働き方の実現や社員の健康向上に貢献できる場を提供するなど、エリアの付加価値向上に取り組むことが求められる。
地方都市において、観光業は未だ逆境にあるものの、軽井沢など都心部から好アクセスなリゾート地では移住やワーケーションの需要が高く、新たなワークスタイルの定着とともに今後も発展が期待される。また、海外から見た日本への観光ニーズは今なお上昇しており、アフターコロナに向けた受け入れ体制を万全に整えておくことで、将来的にはインバウンドの回復が期待できる。地域や自治体は、来たるインバウンド受け入れの本格的な再開時における旅行者の安心安全を実現するため、感染対策の徹底だけでなく、ワクチン接種証明の活用といった体制構築を進める必要がある。さらにその上で、温泉や和食といった日本独自の魅力の発信や観光DX の加速、観光人材の育成などに官民が一体となって取り組むことで、観光地としての国際競争力強化を推進していくことが求められる。
『R.E.port』より抜粋
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